「それで・・・来てくれたの!?」
客が帰りひっそりと静まり返ったセブンス・ヘブンに、弾んだティファの声が響いた。
今日はクリスマスイブ。
メテオ災害後、ミッドガルの隣に建設された街、エッジ。
その一角にあるバー”セブンス・ヘブン”は、クリスマスイブだろうがクリスマスだろうが関係なく、いつも通りに営業をしていた。
なにせ、客商売である。
人様が休んでいる時にこそ仕事をしてナンボ、の世界なのである。
特にクリスマスの前後は、大勢の客で店は大忙し。
しかし今年は、店の様子がまったく違っていた。
去年の今頃なら、店のテーブルは飲み物や食べ物であふれ、お客は椅子に座りきれないくらいたくさんおり、それはそれは騒がしく賑やかで、ティファも大忙しな時間帯である。
それが今年は、普段の日でもありえないくらいにがらんとしており、お客というお客の姿はまったく見られなかった。
客が店主であるティファやその家族のことを思いやってくれたのか、はたまたこの特別な日にはそれぞれが各家庭でゆっくりと過ごしたいと思ったのか・・・今日は早々と店じまいができるほど閑散としていた。
商売としてはあがったりだが、そのおかげでティファはマリン・デンゼルと一緒に、ささやかだが楽しいクリスマスパーティーを開くことが出来た。
そして二人は、満足した様子で今はぐっすりと深い眠りについている。
そんな夜遅くに。
「だってクリスマスイブじゃん!!アタシもさぁ、たまにはいいことしとかないとと思ってさ!!」
「まぁ、コイツがどーしてもっていうし、シエラ号飛ばして来てやったってわけだ!」
一人黙々とクリスマスパーティーの後片付けをしていたティファの元を訪れたのは、相変わらず騒々しい二人・・・ユフィとシド。
「それで・・・マリンとデンゼルのために、プレゼントを持って?」
「サンタクロースってガラじゃないけど・・・まぁ、これ、渡してやってよ!!」
少々得意げな顔をしたユフィは、皮の袋をティファへ差し出した。
「ありがとう、ユフィ!でももう二人共寝ちゃってるから・・・枕元に置いておくことにするね。」
「おっと。そのまま置くのもなんだろ?この靴下に入れて、枕元においてやれよ。」
そう言ってシドが差し出したのは、可愛い手編みの袋・・・のようなもの。
お世辞にも上手とはいえないが、手作り特有のモコモコ感がなんともいえない、微笑ましくあたたかな作品だ。
「これって、もしかして・・・!」
「おう、靴下だ!!」
「えぇ〜靴下??
足の形してないし・・・それに、なんだよこの模様〜〜アハハ!」
「笑うんじゃねぇ、ユフィ!!裁縫が大の苦手のシエラが必死で作った靴下なんだよ!」
「へぇ・・・そうなんだ。ちょっと意外だなぁ。シエラさんてこんなに不器用なんだ・・・ふぅん〜〜♪」
「ちょ、ちょっと、ユフィ!ほら、素敵じゃない?この模様・・・えっと・・・ほら!
モザイク柄?」
「えー?違うよ、
幾何学模様(きかがくもよう)でしょ〜〜???」
「何言ってんだ!どっからどう見たって、
クリスマスツリー柄だろ!!!」
「・・・どこがだよ・・・」
「と、とにかくっ(汗)!!!シド、ありがとう!シエラさんにもよろしく伝えておいてね。」
「そうそう。シエラ号の名前の由来になった、シエラさんにね・・・ププ、ほんっとラブラブだね〜〜!」
「なっなにっ・・・ユフィ〜〜〜!!大人をからかうんじゃねぇ!!!」
ギャーギャーと言い合いをはじめた二人の気をそらそうと、ティファはユフィにたずねた。
「ねぇねぇ、ユフィ!!えっと、ユフィのプレゼントの中身は、何?」
今までシドと喧嘩をしていたユフィだが、待ってましたとばかりにティファに手渡した皮袋を引ったくり、その中身を手のひらへバラバラと出して見せた。
「これが”
ぬすむ”こっちが”
ついでにぬすむ”そしてこれが”
ギルアップ”のマテリア!へへ〜ん、いいだろっ!?」
「・・・全部マスタークラスってところが何気にすごいわね・・・(汗)」
「けっ、どうせそんなこったろうと思ったぜ!おめぇ、そんな物騒なもん子供達にやる気か?」
「物騒なんて失礼なっ!!今の世の中、いつどうなるかわかんないんだよ!そんな時これがあれば、どんな状況でも生き延びれるってもんだろ!?」
「願わくばそんな世の中にはなってほしくないけど・・・ねぇ(汗)」
「あ〜それよりこれ、バレットとナナキから預かって来たんだが・・・」
そう言いながらシドはおもむろに、手にしていた袋の中からゴソゴソと何かを取り出した
「これは、バレットからだ。」
シドが取り出したものは・・・なんというか、陶器でできているような人形のようなモノ。
なんとなく、土臭い。
「うわっなにそれ!気味悪いよ〜〜(汗)!」
「なんでも、忙しすぎてプレゼント買いに行く暇もないみたいでな。”石油”とかいうエネルギーの採掘途中に発見したらしいぜ。」
「そっそれって・・・?」
「”
遮光器土偶”っていうらしいが・・・確かに気味悪い形してるよなぁ。でも、国宝級の発見だって、バレットが興奮してたぞ。」
「国宝!?この土臭い気味悪い人形が、国宝!?しんっじられないーーー!!」
「・・・・・(後でネットで調べてみようかしら)。」
「オレ様にもさっぱりわかんねぇが、まぁとにかく、子供らにやってくれよ。それから・・・っと・・・」
シドはつかつかとドアの方へ歩いていき、扉を開けると、よいしょっと大きな袋をドアの影から引きずり出してきた。
「こっちがナナキからなんだけどな・・・でけぇぞ。で、これが手紙だ。」
「手紙?」
ティファ・マリン・デンゼルへ
クリスマスおめでとう!
この前、オイラが物置をそうじしていたら、こんなものを見つけたよ。
何でそんなところにこんなものがあったのかわからないけど・・・大きくて面白そうだから、みんなにあげる!
大きな玉だよ。
こんなに大きい玉、見たことないよね!!
しかも、ちょっと浮かんでるんだよ・・・?
ナナキより
「・・・・で、これなんだけどな・・・。」
シドは引きずり出した袋の中から、よっこらしょと大きな玉を取り出した。
・・・結構大きい。本当に見たことないくらいの大きさだ。
「ん〜?これ、なんか見覚えあるような・・・。」
ユフィは恐る恐るそれを見つめながら、腕組みをして考え込んだ。
「・・・!!ねぇ、これってもしかして!」
「えっ、何なに!?ティファ、分かったの!?」
「
ナナキのおじいさんが乗っていた玉じゃない!!!ちょっと浮いてるし!!!」
「おぉ!確かに、言われてみればそうじゃねぇか!?」
「マジ!?・・・あぁ!!そうだ!!そうそう、これブーゲンハーゲンが乗ってたよ!!」
「ってことは、ブーゲンハーゲンの形見じゃねぇのか?・・・って、ナナキ・・・(汗)」
「・・・重量的にも気持ち的にも重たいプレゼントね・・・(汗)」
はぁ・・・とひとつため息をつき、シドはブーゲンハーゲンの飛行玉(!)を袋へしまった。
「ま、まぁとにかく!二人共、本当にありがとう。ゆっくりして行ってね。」
「・・・本当は、すぐに帰んなきゃらなねぇんだが、まぁ茶くらいもらってくか。」
「アタシ、ティファの作ったものが食べたい!何か作ってよ〜〜〜!!」
「はいはい、ちょっと待っててね!」
そしてその頃・・・ライフストリームの中で、ひっそりと彼らを見守っている存在があった・・・。
「ねぇザックス!私達も何かプレゼント、あげようよ!」
「えぇ〜?俺、あの子達と別に面識ないし、そんな義理は・・・」
「・・・(睨)」
「あ、ウン、プレゼント、いいねぇ!アハハ(汗)」
「私はこれ、”
香水”いいでしょ?」
「あ、それ、俺がエアリスにやった香水じゃないのか?」
「・・・そう・・・とても私には付けられなかった香水・・・(=失敗作)」
「え、それ、あげちゃうの!?俺が折角作ったのに〜〜〜!」
「マリンも女の子だもの。きっとこういうのに興味、あると思うな。(何せこれ、瓶を持ってるだけで
強烈な香りが・・・ウッ(酔))」
「・・・エアリスがそれでいいんならいいけどさ・・・(寂)」
「それはそうと、ザックスは何をあげるつもり?」
「俺はそうだなぁ・・・・あ!!あれにしよう!!!」
ザックスはトンテンカンテン(妙な擬音だ・・・)と、得意の大工仕事で、一瞬にして作品を作り上げた!
「ジャーン!!
花売りワゴン・2号!!いかにも男の子が好きそうな感じだろ?」
「わぁ!さっすがザックス!やっぱりザックスは大工になった方が良かったんじゃない〜!?」
「いや、俺、夢と誇りを持った、ソルジャーだから。」
「
夢と誇りを持った大工・・・いいと思うけどな。」
「いいも何も、それって無理やりじゃないか?俺はあくまでもソルジャーであって・・・」
「
ソルジャー大工、ってことでも、いいんじゃない?」
「いいんじゃない?って!全然良くないって(汗)エアリスー!!」
ライフストリームの中で、ザックスとエアリスが喧嘩なんだかじゃれ合ってるんだか良くわからない状況に陥っているころ、
セブンス・ヘブンに新たなお客がやってきていた。
「メリークリスマス・・・。」
クリスマスが似合わない男、ヴィンセント・バレンタイン、その人である。
「ちょっとぉ!!なんであんたがここに来るわけ?」
「・・・来てはいけないのか?」
「いけないっつーかよ、おめぇ何しに来たんだ?」
「・・・子供達に、プレゼントだ・・・。」
ヴィンセントは、いつの間にやら傍らにひっそりと置いてあった棺おけの中から、ピンク色のラッピングが施されたプレゼントを取り出し、ティファへ手渡した。
「(何故クリスマスなのにピンク・・・そして棺おけなの!?)あ、ありがとうヴィンセント!」
「子供が喜びそうなものを入れておいた。絶対に喜ぶはずだ。
間違いない。」
「あ・・・うん・・・そうなんだ。」
予想外のヴィンセントの訪問に、未だ合点のいかない表情をしているティファ。
そんなティファと、ヴィンセントと、ピンク色のプレゼントを代わる代わる見つめる、ユフィとシド。
「・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・って、
コラ(怒)!!ヴィンセントのせいで場が白けた!!もう帰るー!!」
「・・・私のせいなのか?これも私の・・・つ・・・」
「あーあーその言葉も聞き飽きたぜ!!さっ、俺たちも帰るぞ!!」
「
私にはお茶はないのか・・・?」
「いいからっ!かえるよ!!!じゃぁね、ティファ!!今度はおいしー物、食べさせよねっ!」
「またな!!」
「お茶・・・ティー・・・うぐっ(汗)」
どうしてもお茶が飲みたかったとみえるヴィンセントを無理やり棺おけに押し込み、シドとユフィは慌しく扉から出て行った。
「・・・あ、ヴィンセントのプレゼントの中身、聞きそびれちゃった・・・。」
再び一人になったティファはバーのカウンター席へ軽く腰掛けると、貰ったプレゼントの山をじっと見つめた。
「ふふふ、こんなに沢山のプレゼント、子供達きっと喜ぶだろうな・・・。」
果たして、怪しげなマテリアやらブーゲンハーゲンの玉やら土臭い人形やらをもらって子供達が喜ぶかどうかは、甚だ疑問だが。
でも・・・とりあえず沢山プレゼントを貰ったら中身が何であれ、それなりに嬉しいものなんじゃないかな?
ていうか、嬉しいと思うよ?
嬉しいはずだよね?
う・・・嬉しくないわけないよね・・・・!
と、ティファが無理やりそう思い込もうとしているかどうかは・・・ご想像におまかせしよう。
「
ティファただいま!メリークリスマス!!」
ティファがカウンター席で色々(?)思い込んでいたまさにその時、扉を開けたのは、そう、彼だった。
「
クラウド!?どうしたの?今日、仕事で帰ってこれないんじゃなかったの!?」
「フッ、実は良いものが手に入ってさ・・・クリスマスのプレゼントにしたいと思って早めに切り上げて帰ってきたんだ。」
「ク、クラウドまでプレゼントを・・・!?」
「クラウド”まで”・・・って何だ?」
「あ、ううん。なんでもないの(話すと長くなるし・・・)」
「まぁ、いいか。とにかく、これ見てくれよ!!!」
ジャーン!クラウドフィギュア!!
「え・・・あ、うん。」
「すごいだろ!!これ、
FF7AC限定版BOXに入っていた、超レアものなんだぞ!?」
「・・・え、えっと?う、うん。」
「今じゃもう全く手に入らないんだけどさ、なんとか手に入れたんだ!!」
「・・・へえ・・・。」
「子供達、絶対喜んでくれると思うだろ!?」
「・・・(貰えるものは多いほうが・・・)喜ぶと思う・・・かな?」
「それから、これ、ティファにプレゼント!」
「エッ!?私に!?」
まさか自分にもプレゼントがあるとは全く思っていなかったティファは、本当に驚いた。
一体クラウドは、何を自分にくれるというのだろうか。
「あぁ、
クラウドフィギュア!レアものなのに、今回3つも手に入ったんだ!だから、1つはティファに。」
「・・・レアかもしれないけど、一家に3個はちょっと・・・。」
「ん?何か言ったか?ティファ?」
「う、ううん、なんでもないの!」
口ではなんでもないのといいながら、クラウドって実は誰よりも自分大好き人間なのかしら・・・と疑ってしまうティファだった・・・。
そして、次の日
「ウワー!なんだこれぇぇぇ!!!」
デンゼルとマリンのベッドの周りには、謎の・・・本当に謎めいた”モノ”が点々と置いてあった。
「ねぇ、デンゼル!これってもしかして、サンタさんが・・・!」
”モノ”が散らかっているベッドの周りをきょろきょろと見回した後、弾んだ声でマリンはデンゼルに話しかけた。
目はきらきらと輝いている。
「えっマジで!?と、とにかく、何が置いてあるのか確認してみようか。」
少々興奮した面持ちで、デンゼルはベッドから降り立ち、足元に置いてあった”モノ”を手に取りしげしげと眺めた。
「なんだ?このモコモコした変な袋・・・?あ、中にビー玉みたいなのが入ってる。」
「・・・ねぇ、デンゼル・・・・こっちの大きい玉は何かな・・・?」
「おい・・・ちょっとそれ、
浮いてないか(汗)!?」
「え!?・・・って、キャッ!!この人形なに!?
気持ち悪いよー!!」
マリンは土臭い人形におびえている。
そんなマリンを横目に、デンゼルはドンっと置いてある、車輪の付いた”モノ”を食い入るように見つめてから叫んだ。
「うっわ〜〜〜、なんだかわかんないけど、これすっごくかっこいい!!」
「なぁに?それ?・・・
ベビーカー?」
「えー!?これベビーカーなの!?かっこいいベビーカー!!?そんなの俺、いらないよ〜〜〜!!」
「こっちは、うっ・・・すごい匂いがするぅぅ(汗)・・・?」
「ん?この、ピンクのは何だろう?」
ピンクの包みをバリバリと破くデンゼル。
「あ、ゲームのソフトだ。」
「
だーじゅ・おぶ・けるべろす・・・?」
「あ、これ、12歳以下は遊んじゃいけないっていうマークが書いてあるぜ。」
「そもそも家に
ゲーム機本体が無いから、遊べないよね。」
「ちぇっ!どうせならゲーム機本体をくれれたいいのに・・・。これ、
誰かに売ろう。」
「うん・・・。」
「・・・・・」
「・・・・・・・」
「
結論!!」
謎の沈黙を破り、デンゼルが突然叫んだ!!
「これ、絶対サンタさんからのプレゼントじゃないっ!!!」
「うーん、そうだよね。よくわかんないもの、ばっかりだもんね・・・。」
「嫌がらせ?ていうかむしろ、
オーパーツ?」
オーパーツというとんでもなく子供らしくない単語を発し、デンゼルははぁとため息をついた。
「あれ?これ・・・何かな?」
そのとき、マリンが部屋の片隅にひっそりと置いてある物体を発見した。
「これ・・・もしかして・・・クラウドじゃないか?」
「本当だ〜!
クラウドとフェンリルの人形!!」
「違うよマリン。これ”ふぃぎゅあ”っていうんだぜ!わぁ、すげえ!関節が動く!?」
「本当だ!腕がほらっ!!」
バキッ
「・・・折れたよ・・・」
「・・・折れたな・・・」
「でもでも、首も動くよ!?ほらっ!!」
バギッ
「・・・折れて・・・飛んでいったね・・・」
「・・・・」
そのとき、子供部屋のドアが開いた。
がちゃっ
『 グシャッ! 』
「おーい、デンゼル、マリン!今ケットシーがお前達にプレゼントを・・・って、”グシャッ”??」
「・・・(頭を)踏んじゃったね・・・」
「・・・(頭を)踏んじゃったな・・・」
「俺、今何か踏んだ・・・?」
「!う、ううん、なんでもないよ!さっマリン、下におりようぜ!!」
「うん!クラウドも、ほら、はやく行こう!!」
「あ、ああ・・・?」
その日の夜。
クラウドは自分が踏み潰したものの正体を知り、絶叫する事になるのだが・・・。
まぁとにかく、プレゼントは自分が気に入ったものをあげるのではなくて、
相手が気に入るものをあげ無くちゃ、ちょっと悲しかったりするんだよ・・・。
と、ウメ丸が勝手に思った今年のクリスマスなのでした。
<☆メリークリスマッシュ☆>
モドル